“日本製オールコルク”ができるまで ―高品質への確かな自信とこだわり│コルクと共に歩んできた3人の職人へインタビュー

1896年の創業から100年以上コルクと共に歩んできた老舗コルクメーカーである当社は、コルクにまつわる知識とノウハウを活かし、コルクを贅沢に使用した100%コルクのオールコルクマットを開発しました。

これまでのコルクマットは、スポンジ生地に薄いコルクシートを貼り合わせることが常識でしたが、あえてスポンジを使用しないことでこれまでコルクマットのデメリットとして挙げられてきた反りや匂いを軽減。
海外製のコルクマットが多く存在する中、国内の自社工場でつくる“高品質な日本製コルクマット”にこだわり続け、今年で販売開始から10年の節目を迎えました。

今回は当社でコルクと携わり続けてきた3人の社員にインタビューを行いました。
役職や世代の異なる3人に、これまでの歩みとコルクマット製作への思いについて北茨城にある当社の中郷工場にて話を聞きました。

平坦ではなかったコルクとの歩み

まず話を聞いたのは当社の役員・荒川さん。

当社の中でも勤続年数が最長で約半世紀もの間コルクと向き合い続けてきた荒川さん。
現在は長い年月をかけて蓄積した知識やノウハウによって機械の自動化や管理体制が整っていますが、天然素材であるコルクの管理が当初は難しく、現在の体制に行き着くまでの道のりには多くの苦労があったと語ります。

― 今年で入社何年目になりますか。

1979年入社で46年目になります。
コルクの製造から品質保証、技術などあらゆる配属を経て工場長に就任し現在に至ります。

― 入社当時と現在で大きく異なる点はどんなところでしょうか。

約50年以上前までは高周波を用いた製法でコルクのシートを生産していましたが、高周波での製法は作業者の人体に影響を及ぼす可能性が浮上し、約30年前から人体に影響がない製法へと大きく変化しました。
また約30年前まではお客様の希望に応えるために生産後すぐに発送していましたが、天然素材であるコルクには伸び縮みする性質をもっていることもあり、製造後すぐに出荷するとコルクの伸縮が顕著に起きてしまい、納品後に反りなどが発生する事態に直面しました。
納品後に反りなどがないように、コルクをブロック状に固める工程で養生期間を長めに設けてから出荷するよう製法を変更しました。しかし、今度は需要に対し生産効率が下がってしまう課題が生まれたため、コルクを固める接着剤を原材料メーカーと共同開発する形で養生期間の短縮に成功しました。
現在ではさらに進化したホルムアルデヒドの放散や食品衛生法に準じた接着剤を使用しています。

― コルクの製造に携わる中で大変だった出来事を教えてください。

当初はコルク粒はポルトガルから船便で輸入していましたが、船から倉庫への引き上げ時に巨大なコルクの袋を人の手で8段積み上げる作業があり、非常に大変だった記憶があります。
また、昔の船便は品物の管理環境が非常に悪く、コルクが完全に濡れてしまうことや、船内の香辛料などがコルク粒に混ざってしまい使用できなくなることが多々あり、悩みの種でした。
その時に高品質なコルクにするにはどうしたら良いかと考え、現在の生産ラインでも使用している異物を徹底除去するシステムが生まれました。

▲圧縮された樹皮の塊を専用機械でほぐし粒状となって放出される

▲特殊な配合の接着剤を混ぜ込み人の手で表面をならしていく

挫折と挑戦 オールコルクマットの開発

次に話を聞いたのは入社26年目の七井さん。
スポンジを使用しない「オールコルクマット」の開発に携わった、当時のメンバーの一人です。

当社は長い間、飲料メーカー様向けにワインの栓や工業用に使用する目的のコルクを製造しており、一般のお客様向けの商品は取り扱っていませんでした。
そんななかご家庭でご使用いただくコルクマットの製作の話が立ち上がり、創業より100年以上の歩みの中でも初の試みとして、プロジェクトが始動しました。
しかし、試作段階では課題も多かったと七井さんは語ります。

―コルクマット立ち上げの話を聞いた時、率直にどう思いましたか?

これまでは工業用としてコルクシートを生産・販売していたので、正直、一般のご家庭でご使用いただくものとして果たして需要があるのかと不安な気持ちがありました。

― オールコルクマットの試作の中で課題に直面したと伺いました。

コルクには粒の大きさや種類がいくつかあり、十分な強度を保ち見た目も美しい最良のものを選定し製作しましたが、生産の過程で同粒の入手が困難となり他の粒を選定し試作を繰り返しました。

またコルクマットはギザギザとしたジョイント部分がありますが、他の製品でのコルクの配合だと強度が足りず、最初の試作は繋ぎ合わせただけでジョイント部が取れてしまう事案が発生しました。
技術部と配合を見直し、十分な強度が保てる高品質なコルクマットを目指しました。

▲暗室で養生期間を設けブロックを硬化させる

▲固まったコルクがトースターからパンが焼きあがるようにせり上がる

― 販売から10年が経過し、現在多くのご家庭でご使用いただいていますね。

大変嬉しく思います。当社の製品を手に取っていただいたお客様とのつながりも末永く続いていけるよう、一つ一つ心を込めてこれからも生産していきます。

長い歴史で培われた技術を受け継いでいく

最後に話を聞いたのは入社14年目の根本さん。
入社当時からコルクの製造に関わり現在はチームのリーダーを一任されています。

コルクマット製造の現場責任者として、天然素材であるコルクと日々向き合う中で、繊細な感覚が求められる作業と新しい世代への継承の難しさについてお教えいただきました。

― コルクの製作にあたり最も難しいと感じる部分はどんなところですか。

天然物であるコルクの品質を維持し、生産するのはどの工程も難しいと感じます。
機械の自動化も進んではいますが、品種ごとに刃先の形状を変え刃物を研ぎながら稼働させることで常に切れ味を維持する必要があります。スライス機を使用するとはいっても、品質と生産性を両立させるためには、作業者の視覚(刃先が何ミリあるか)、聴覚(刃の当たり方)、触覚(切れ味)が重要であり、自動化できない部分もあります。
そういった技術は機械の自動化だけでは対応できないため、日々の業務の中で継承していかなければなりません。長い歴史の中で培われたノウハウが詰まった作業は他にも多々あるので、作業一つ一つの意味を意識して作業するよう新しい世代に指導しています。

― コルクマットの製作にあたり他の製品と異なる点はどんなところでしょうか。

ジョイントの部分の強度を保つため特殊な配合となっており、他のコルクと比べすぐに硬くなってしまうことから、ブロック状に固めた翌日にはスライスしなければなりません。またシート状にスライス後1カ月と長めの養生期間を設けており大量生産が難しい点が他の製品とは異なる特徴です。

▲出来上がったブロックを専用機械に通しミリ単位でスライスしていく

▲型抜きをする前に表面の傷や汚れがないか目で見て最終チェックを行う

― コルクマットをこれから検討されるお客様へ一言お願いします。

老舗コルクメーカーが長い年月をかけ継承していった知識やノウハウを詰め込み丹精込めて作り上げていますので、ぜひ一度お試しいただけたら幸いです。

▲工場の前で笑顔の3人。工場での生産を支えている